顔面神経麻痺
顔の表情は、人の第一印象を決める要素のひとつです。また、感情を表現する方法のひとつでもあります。表情とは、眼から入ってくる情報であり、その情報量は五感の中でも最も大きい比率です。そんなに大きい役割を持つ表情が作れなくなってしまったとしたら・・・。私は、家から外に出られなくなってしまうかもしれませんし、かなりのストレスとなってしまいます。
この顔面神経麻痺は、誰にでも起こりうる可能性の高い疾患であり、症状の改善もする疾患です。
しかし、まれに後遺症が残ったり、再発することもある疾患・症状になります。
顔面神経とは
多くの方が朝起きて鏡を見て異変の気づかれるのではないか?と思います。
顔面神経とは顔の表情筋へ行く運動線維と、これとは別に脳幹から出る中間神経という神経束の形で味覚線維と内臓性遠心分泌線維(副交感神経)とを含んでいます。顔面神経管の中から大錐体神経、アブミ骨筋神経および鼓索神経が出て行きます。大錐体神経(涙腺、鼻腺および口蓋腺へ行く節前性分泌線維)は膝神経節から分かれています。アブミ骨筋神経は中耳のアブミ骨筋の運動を支配しています。鼓索神経(舌の前2/3に分布する味覚線維と顎下腺、舌下腺および種々の舌腺へ行く節前性分泌線維)は茎状突起の上方で枝分かれして出て、鼓室の粘膜下を走り、最終的には舌神経に入り込みます。
耳下腺へ入る前に、顔面神経は後耳介神経および顎二腹筋の後腹と茎状舌骨筋への筋枝を出します。耳下腺神経叢からは側頭枝、頬骨枝、頬筋枝、下顎縁枝および広頸筋へ行く頚枝が出ています。これらの枝は表情筋全体を支配しています。『解剖学アトラスより抜粋』
神経分布
11.鼓索神経
17.翼突筋神経
18.顎二腹筋
20.側頭枝
21.頬骨枝
22.頬筋枝
23.下顎縁枝
24.頸枝
顔面神経麻痺とは
顔面神経が何らかの原因により損傷を受け、顔の筋肉が上手く動かせなくなるなどの症状が出るものです。
原因は多岐にわたり、原因不明のもの、ウィルス感染によるもの、内科的疾患からのも、外科手術後のもの、骨折などによるものなどあります。その中でも大半を占めるのが『ベル麻痺』と言われる原因不明のもので、次に多いのが水痘ー帯状疱疹ウィルス感染が原因の『ラムゼイハント症候群』になります。
顔面神経は、脳の顔面神経核から神経の枝を伸ばしています。脳の中央部分から側頭骨の顔面神経管に枝を伸ばし、耳たぶの奥から耳の前にある耳下腺の間を通って顔の筋肉へと繋がっています。
免疫が低下したり、寒冷やストレスなどの何等かの理由でウィルスが再活性化したりすることで、神経が炎症を起こし、浮腫(むくみ)が起きます。神経は骨の中を通っており、この骨の狭い部位で浮腫した神経が絞扼(圧迫)されます。最初は、ミエリンという神経伝達に関わる部分が破壊されますが、その後、神経の軸索変性を引き起こします。これらの理由により顔面神経核から表情筋に向かって分布する神経のどこかが障害され、表情筋を動かす信号が入ってこなくなってしまい表情筋が動かなくなります。この状態を顔面神経麻痺といいます。
症状
神経の障害側の顔半分の筋肉が弛緩性麻痺となり動かせなくなります。
顔の表情をつくる表情筋を動かす顔面神経が障害を受け、笑顔が作れなくなってしまったり、眼を閉じることができなくなったり、口の周りの筋肉が上手く動かせないことにより食べ物をこぼしてしまったりすることなどが主な症状として知られています。
顔面神経はこの他に味覚を伝える神経、涙や唾液を分泌する神経、耳を大きな音から守るための働きをする筋肉を動かす神経なども支配しています。これらが障害を受けてしまうと、味覚障害、涙や唾液の分泌低下、聴覚過敏などの症状が出る場合もあります。この他にもめまい、舌の痺れ、瞼が閉じないことにより角膜へ傷が入ることによる症状、食べ物が一ヶ所に固まりやすいなど損傷を受けた神経に付随する筋肉や器官などさまざまな症状が出ることが考えられます。
ウイルスの再活性化に関連した症状として耳の痛みや耳後頭部に痛みが出る場合もあります。
原因が分かるものでは、顔面神経麻痺の症状以外にも症状があります。脳血管障害 などが原因の場合は、手足の痺れがある場合もありますし、ろれつが回らないなどの症状があることもあります。原因となる疾患を特定して治療を行わないと症状が改善しないこともですが、命に危険が及ぶ可能性もあるので、検査をして診断を受けられ、原因となっている疾患の治療していただくことが大切となります。その他の原因の場合も様々な症状が出ている場合もありますので、気になる症状(例えば、排尿障害・腰痛・物が二重にみえる)など、どんな些細なことでも全て伝えられると診断に必要な検査を行い、治療に繋げることができます。
原因
原因不明のもの
- ベル麻痺
ベル麻痺と診断される方が全体の約60%です。そして、現在は、ベル麻痺の約70%の方が単純ヘルペスウィルスの再活性化によるものとの報告もあり、全く原因が確定されていなかったときと比べると変わってきています。
単純ヘルペスウィルスとは、口内炎や口唇に水泡が表れるときの原因となるウィルスで幼少期に半数以上の方が感染しています。このウィルスに感染すると、体内にずっと潜んでいて、何等かのきっかけで再活性化することで神経に影響を与え、症状が引き起こされると考えられています。(ベル麻痺の原因については、1996年に論文が発表されています。)
この論文は、顔面神経減圧術をされた方から手術時に採取された液を検査してウィルスが検出されたものですが、一般的に病院での検査では、結果が分かるまでに時間がかかったりすることや唾液を採取して検査がしても唾液を採取する時の条件により出たり出なかったりするため診断が難しいことがあり検査して原因を確定することはないようです。ただ、顔面神経麻痺の症状と同時に口唇ヘルペスが出ていれば単純ヘルペスウィルスの再活性化だと考えて間違いないようです。
原因がわかるもの
- 水痘ー帯状疱疹ウィルス感染(ラムゼイハント症候群)
- 聴神経腫瘍や顔面神経腫瘍など
- 脳出血や脳腫瘍など
- 中耳炎
- 糖尿病
- シェーグレン症候群
- ギランバレー症候群
- サイルコイドーシス
- ライム病 など
ラムゼイハント症候群と診断される水痘ー帯状疱疹ウィルス感染によるものが顔面神経麻痺の全体の15%ほどを占めています。このウィルスもベル麻痺の原因として報告されている単純ヘルペスウィルス同様、幼少期に感染して体内に潜んでおり、何等かの原因で再活性化してしまうことにより起こります。
水痘ー帯状疱疹ウィルスの場合、耳の周囲に水泡ができることで診断されることが多いようですが、耳の周囲に水疱が全く確認できないが血清検査により水痘ー帯状疱疹ウィルスが原因だと診断されるケースの報告もあります。
検査
- 頭部MRI
- 誘発筋電図検査
- 味覚検査
- 耳小骨筋反射検査
- 涙液・唾液量検査
- その他基礎疾患を評価する検査 など
治療 (ベル麻痺・ラムゼイハント症候群)
- 薬物療法
ステロイド:神経の炎症と浮腫を抑える
抗ウィルス剤:ウィルスの増殖を抑える
ビタミン剤:神経回復の促進 - 顔面神経減圧術
- 星状神経節ブロック
- その他
参考 Medical Note 顔面神経麻痺・ベル麻痺の原因とは
顔面神経麻痺は再発するのか
顔面神経麻痺の治療と後遺症への対応 etc